カスタムIEM。 これまでTF10proやIE80といったソコソコ高価なイヤホンを使っているのでその存在は知っていましたが、値段的にとても手が出せるのもではなく、気にも留めていませんでした。
壊れてしまったTF10proを直せないかとネットで調べていたところ、リモールドというサービスがあるらしいとか(でも3万ぐらいする)、さらにはDIYでカスタムIEMを自作しているという衝撃のブログを目にしました。
非常にマニアックな趣味なので情報量はそこまで多くなかったのですが、丁寧に作りかたを解説しているドキュメントが公開されていたりして、自分でもなんとかできるんじゃないかと思い試行錯誤を始めました。
数ヶ月を経て、一応聞けるレベルのものが作成できたことと、その中で自分なりのノウハウが溜まってきたのでここに公開します。
↑完成したCIEM。
1.準備
まずは、作成のための材料と工具などを揃えます。
カスタムIEMの材料
- ドライバー(BAドライバ・ダイナミックドライバ)
これがないとイヤホンとして成り立ちません。CIEMの多くは小型のBAドライバを使用したものがほとんどですが、最近はBAドライバとダイナミックドライバを組み合わせたハイブリッド構成も見られるようになっています。
ドライバ単体で購入できる場所はあまりないですが、最近は楽天で売っている店もあります。
イヤホン自作 自作カスタムIEM用 バランスドアーマチュア Knowles RAB-32257 receiver Balanced Armature Speaker バラ売り1個 |
↑シングルドライバで非常に評価の高いBAドライバ
補聴器用として作られていたこれまでのドライバと異なり、音楽用として開発されたとのこと
自作カスタムIEM用 イヤホン自作 トリプル バランスドアーマチュア カスタムIEM用 Knowles GK-31732 3ドライバー Balanced Armature バラ売り1個 |
↑TWFKとCIの3ドライバ構成のBAドライバ。
この組み合わせはWestoneのUM pro30などでおなじみです。
Knowles製 TWFK Dual Speaker採用 デュアル・バランスド・アーマチュア 高解像イヤホン G452(ブラウン)
↑市販のイヤホンを分解し、ドライバを流用するという手もあります。
こちらは、TWFKという、AKG K3003やLogicool UE 900等の中高域に使用されているドライバを搭載したイヤホン。
この価格はTWFK単体で買うより安いです。
- 光硬化樹脂(UVレジン)
カスタムIEMの特徴である、耳の形状に合わせたシェルを作成するための樹脂。
作成方法はいくつかありますが、ここで紹介するのはUVレジン(紫外線で硬化する樹脂)を使用する方法です。
女性向けの手作りアクセサリーの素材として、ハンズや百円ショップなどでも売っています。
ただしそういうものは人体に密着させて使用することを想定していませんので、こだわる人は医療グレードのものを海外から輸入して使っているようです。
私はハンズで手に入るものを使っていますが、今のところ問題はありません。
自作カスタムIEM 紫外線硬化樹脂 光硬化レジン イヤホン自作シェル ハウジング用 Fotoplast S-hart 透明250g 並行輸入品(Xメール便不可) |
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↑楽天で売っている医療グレードのもの。
↑私が使っているパジコのクラフト用レジン
- 音響抵抗(フィルター)
BAドライバの音をダイレクトに聞くと高音が出過ぎてキンキン刺さるので、フィルタを噛ませて調節します。
ハイカットの周波数によって色分けされた2mm径の小さなパーツです。
音導チューブにはめ込んで使用します。
自作カスタムIEM用 イヤホン自作 チューニング用音響フィルター 4個入セット Knowles Acoustic Damper サウンド調整フィルター(メール便発送可) |
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↑TWFKなどを作っているKnowlesのフィルター。
- 音導チューブ
BAドライバの出口(スパウト)から耳まで音を漏らさず伝えるためのチューブ。
幾つかの大きさの物が売られていますが、フィルタをはめ込むため内径2mmが一般的。
透明ビニールチューブ イヤホン自作 カスタムIEM用 導管チューブ3種類セット(各1m)[メール便可] |
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↑オヤイデだと10m 300円で売ってます。ただし2mm以下のものは200mからしか売ってません。
- コンデンサ/抵抗/コネクタ/配線材
複数のBAドライバを組み合わせる場合、コンデンサと抵抗を用いてネットワーク回路を作ります。
ドライバの組み合わせとネットワーク回路の調整によって自分好みの音にしていきます。
高級イヤホンやカスタムIEMにおいてはイヤホンケーブルが外せるようになっているのが一般的です。
カスタムIEMは埋め込み式の2ピンが多いですが、SHUREやSONYがMMCXコネクタを採用してからMMCXも増えています。
イヤホンケーブルの選択肢はMMCXが一番多いと思います。
AVX製 酸化ニオブコンデンサ Capacitor バラ売り1個単位 イヤホンなど自作用(メール便可) |
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↑コンデンサは秋葉原などで1個から買えると思いますが、オーディオグレードの物を使用しましょう。
Vishay製 厚膜抵抗器 Resistor バラ売り1個単位 イヤホンなど自作用(メール便可) |
↑抵抗も同様です。
自作カスタム イヤホン自作 内部配線線材 Estron エストロンケーブル Hi-Fi オーディオ用銀コート銅線 エナメルリッツ線 1m単位切り売り メール便可 |
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↑線材はエナメルリッツ線を。
壊れたイヤホンのケーブルを剥いても使えます。
自作カスタムIEM用 MMCX female MMCXコネクターメス バラ売り1個単位 イヤホンなど自作用(メール便可) |
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↑メス側のMMCXコネクタはあまり売って無いのですが、最近オーディオ用に出てきた切れ込みのある物が良いようです。
作成に必要な材料
シェルの型を取ったり、耳型(インプレッション)のコーティングなどに使用する素材です。私は主にAmazonで購入しています。
- 透明シリコン樹脂
耳型からシェル作成用のメス型を作るために使用します。
ボークス造形村の透明シリコンが鉄板です。
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↑透明と言っても白濁していますが、紫外線は十分に透過してくれているようです。
透明シリコン樹脂 2液(A+B)混合タイプ 1Lx2本 イヤホン自作 イヤーモールド製作用 Klarsil- H 並行輸入品(Xメール便不可) |
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↑イヤーモールド製作用として売られている物も
- プラサフ/コーティング剤
耳型(インプレッション)は少し縮むため、厚さ増しと表面の凹凸を綺麗にするために使用します。
ネットの情報ではロウソクを使っている方が多いようですが、ロウソクは割れやすいのと細かい造形まで作りこめないため私はプラサフを使っています。
最後にウレタンニスでコーティングをしてツヤツヤにする事で、シェルを磨きこむ必要が無い綺麗なメス型が作れます。
↑プラサフの種類はそれほど気にしなくてもいいようです。
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↑シェルのコーティング用としても使用できるワシンのウレタンニス。
表面がツヤツヤになります
- インプレッション剤
耳型を取る事は医療行為に当たるため、ちゃんとした補聴器屋などで取ってください。
以下に挙げるような素材を使ってのセルフインプレッションはダメ絶対!!
自作カスタムIEM用 耳型インプレッション作成キット 宅配便配送(メール便不可) |
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↑Westoneが販売しているからといって買ってはいけません。
ブルーミックス50gposted with amazlet at 15.11.09 アグサジャパン(株) |
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↑ブルーミックスでも出来るといった情報を耳にしてもダメです
工具など
作成に必要な工具などです。
ハンズやAmazon、百均などで揃えます。
- UVランプ
ネイル用やクラフト用として売られています。
私は9W × 4本のものを使っています。
全体に満遍なく光が当てられて便利です。
パジコ UVレジン UVライト 紫外線照射機 36W タイマー付き 404181posted with amazlet at 15.11.09 パジコ (2014-04-01) |
↑私は同じタイプの物をハンズで買いましたが、Amazonが安いですね。
- リューター
シェルを磨いたり削ったりするために必要。
私のやり方ではシェルをほとんど磨かないので、コネクタ用の溝を掘るぐらいです。
↑電池式ではなく、速度可変の物がオススメ。
- サンドペーパー
こちらもシェル自体にはほとんど掛けませんが、インプレッションの形を整えたり、フェイスプレートとの接合面をならすために使用します。
接合面用には120〜240番手あたりの粗めのものを使います。
インプレッションやシェル自体にかける場合は、800〜1500あたりの細かい物を使います。
曲線が大いので、後者はスポンジタイプの物がオススメです。
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↑百均やホームセンターでも安く買えると思います。
- 真空保存ケース
シリコン樹脂でメス型を作成する際に、気泡を抜くための真空ケースです。
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↑保存ケースとポンプがセットになったものがオススメ
- 型枠
メス型を作成するための型枠。
満遍なく光をあてるために円筒型が望ましいですが、紙コップで全然問題ありません。自作カスタムイヤホン シリコン型取用
価格:860円(税込、送料別)
- 遮光カバー
光硬化樹脂を固めてシェルを作成する際に、上面に光を当てないようにするためのカバーです。
黒い厚紙等を適当にくりぬいてください。
自作カスタムIEM プラスティックカバープレート 1枚(青) 口径サイズ40mm(メール便可) |
↑一応こういうのも売ってます。
- その他
百均で手に入る便利な小道具たち。
・ピンバイス
ダイソーで2mm径と2.5mm径のセットで売ってました。
シェルの先端(カナル部)に音導チューブを通す穴を空けるために使用します。
・ネイルリムーバー
光硬化樹脂のふき取りなどに使用します。アセトン入りの物を。 ・綿棒
汚れをふき取ったり樹脂を伸ばしたり。
通常サイズとベビーサイズを両方用意しておくと便利です。 ・爪楊枝
こちらも細かい作業する際に使用します。
・UVレジン用着色料
ダイソーで売ってました。
それ以外にも、フェイスプレートのデコレーション用にネイル用のラメや、クラフト素材が豊富です。
2.インプレッションの採取
まずは自分の耳型を取らない事には始まりません。
前述のとおり、補聴器屋さん等で採取してもらってください。ただし、一般の補聴器屋はIEM用としての採取は断られる場合もあります。
eイヤホンさんで、インプレッション採取会をやっている事もあるようです。
※ブルーミックスで採りましたが真似しないでください。
3.インプレッションの整形・コーティング
インプレッションをカッターナイフやデザインナイフでカスタムIEMの形に整形します。
まずは大雑把に、外側のいらない部分を切りとっていきます。
カナル先端も、適当な長さまで切ります。
上部はヘリクス部(上のでっぱり)まで残します。
耳にはめ込む際にヘリクス部が引っ掛かりホールド性が向上します。
また、ヘリクス部の内側に出っ張った部分は大胆に削り取ります。
ここが残ったままだと、長時間付けた時に痛みを感じます。
さらに、ブルーミックスやパテなどを使って、厚みが必要な場所に肉付けをしていきます。
カナル先端は、密閉性を高めるためキノコ状に膨らみをもたせます。(写真のものは不十分でした。)
円錐状の場合、どうしても隙間ができてしまいます。
大雑把に形ができたら、リューターやサンドペーパーなどを使って表面を滑らかにしていきます。
少々の凹凸はプラサフで隠すので問題ないです。
形が出来上がったら、プラサフで表面をならしていきます。
模型作りと同じように、プラサフを吹いて乾かして水研ぎペーパーで形を整えてという工程を繰り返します。
満足のいく形にできたら、最後にウレタンニスでコーティングします。
どうでしょうこのツヤっぷり!
ビフォーアフター
ちなにみ作業中は、底面に2mmの穴を開けて、爪楊枝を刺した状態でニスなどに漬けてます。
土台はダイソーで買った木粉ねんどを乾燥させたやつ。
メス型の作成
作成したコーティング済みの耳型から、透明シリコンでメス型を作成します。
紙コップの底などに整形済みの耳型を置きます。
油粘土などで固定するといいと思います。
左右ともにセッティングができたら、透明シリコンを準備します。
シリコン液をだいたい100〜150ccほど容器にとり、硬化剤を規定量混ぜます。
気泡は気にせずしっかり混ぜてください。
混ぜ終わったら、真空保存容器に入れ、減圧します。
気圧が下がる事で、シリコン液に溶けていた気体が飽和し、気泡がいっそう現れてきますが問題ありません。
そのまま10分程度容器に入れます。
このとき、こぼれないよう注意しながら揺すったり振動を与えたりするといいようです。
10分程度経ったら容器から取り出します。
まだ気泡は残っていますが、次第に減っていきます。
取り出した状態でさらに10〜20分程度放置します。
気泡がほとんど抜けてきたら、ゆっくり型の中に流し入れます。
気泡が耳型に接していなければ問題ないので、少々の気泡は気にしなくても大丈夫です。
あとは硬化完了まで24時間待ちます。
硬化したら、耳型を取り出して完成です。
耳型同様、ツヤツヤのメス型が完成しました。
シェルの作成
ここまでくれば、あとはメス型にUVレジンを流して硬化させるだけです。
メス型にUVレジンを流し込み、上から遮光用の蓋をします。
UVランプの光を当て、硬化させます。
写真は2つ並べていますが、1つずつの方がムラがなくていいと思います。
UVレジンの種類にもよりますが、30〜60秒で1~2mmの厚さに硬化します。
何度も試して理想の照射時間を探ってください。
また、手前側の開いている部分にも、アルミホイルなどで覆うとよりムラなく仕上がります。
外側が硬化したら、内側の未硬化のレジンを取り出します。
再利用できるので別容器にとっておくといいでしょう。
このままでは内側がベタベタしたままなので、裏返して表側からUVライトを照射します。
数分しっかり当てたら、さらに裏側から照射します。
何度も当てて、ベタ付きが残らないように硬化します。
とはいえ、硬化直後は完全にベタベタが取れるわけではないです。
メス型からシェルを取り出したら、しばらく(数日)は日の当たる場所などで放置しておきましょう。
そうすれば乾燥してほぼベタつかなくなります。
完成したシェル
裏から見たところ
型から取り出しただけで、磨いたりコーティングしたりしていませんよ。
ドライバの組み込みはまた次回に。